大自然と融和したアイヌ民族の文化を伝えるおすすめ度
★★★★☆
本書は、アイヌ民族の文化復興に力を注いだ著者の伯父・山本多助氏と、その妹であり著者の母である伊賀ふで氏の著述を編纂したものです。
第一部「森に宿る言霊」では、山本多助氏が釧路のアイヌの系図と伝説を各地の古老(エカシ)たちに尋ね歩いた内容や、アイヌ民族の流儀を記しています。また、第二部は伊賀ふで氏が晩年に執筆した子どもの頃の体験記で、まだアイヌの伝統が残っていた頃の生活を伝えています。
アイヌ民族は文字を持っていませんでしたから、「ウ・チャ・シカマ:古事を言葉で語り伝えること」と、「ウ・パ・シカマ:古事を記憶にとどめ、伝えること」を大切にしました。
その言い伝えによると、北海道東部地方には裸族、穴居族、山狩り族らの先住者がいました。その後、「シリ・ウン・クル:大地の御方」族ら3つの種族が現れた後の「カムイ・ウタラ:神である同胞」族がアイヌ民族とのこと。
続いて、クシリ・アイヌの始祖から24代目の元祖山本多助エカシまでの名前と主な事跡の言い伝えが詳しく記述されています。中には、第9代アパイタンキ・エカシの娘が天空界の神様である雷神様に見染められ、落雷によって身ごもって生まれたのが第10代のカンナムカイ・エカシである、という神話的な言い伝えも残されているようです。
口承伝説というと、伝えられるたびに内容が変わってしまうのではないか、という印象がありますが、文字を持たないからこそ人から人へ正確に伝えようとするもののようです。
山本多助エカシは、もう口承されなくなった物語をエカシから聞き出し、その内容を文字に留めました。怪しい伝説をはっきり「誤り」と断定する論証もあります。
大自然と融和したアイヌ民族の文化を伝える内容は、“和人”の考え方とはひと味違う世界観を教えてくれます。日本の中の異文化に接してみてはいかがでしょうか。
概要
チカップ美恵子の伯父、山本多助と母、伊賀ふで―誇り高きアイヌ民族のきょうだいが綴る魂のメッセージ。
内容(「MARC」データベースより)
誇り高きアイヌ民族のきょうだいが綴る魂のメッセージ。第1部は、著者の伯父・山本多助著「釧路アイヌの昔話と伝説」(第1巻、2巻)から、第2部は母・伊賀ふでが晩年に執筆した子どもの頃の体験記をまとめたものを収録。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
チカップ 美恵子
1948年釧路市生まれ。油彩画、アニメーション彩色を経て、アイヌ文様刺繍作家に。2002年第六回女性文化賞受賞(高良留美子創設)